強欲、獣を制す
私の後輩であるJは、私によく懐いてくれた後輩のひとりだった。
特別Jに対して、何か慕われるようなことをした憶えはないのが、Jは私のことを信頼し尊敬しているのだと言ってくれる。悪い気はしない。しかし私自身、他人に対して特別自慢できるような特技を得てしているわけではない。自覚がないだけかも知れないが、あまり煽てられても困るのだとJには言い聞かせていた。
ただJは勉強熱心だった。熱しやすく冷めやすいところもあったが、それでも先輩である私が教えたこと以外にも、自ら行動して知識の幅を広げていき、そこから新しいアイデアなどを次々と生み出していく。それが暗礁に乗り上げかけていた事案を解決に導いてくれることもあった。それはまるで闇夜を照らす狐火のよう。私からしたらJはもう、私に頼らずとも生きていける人間であった。
そんなJから突然連絡あり、二人で旅行にでも行かないかと誘われたのだ。どこに行きたいのだと聞くと、Jは神社などのパワースポット巡りをしたいとのこと。近くには温泉もあるのだという一言に釣られ、仕事の疲れもあった私は有休を使い、Jと二人で有名な神社を回る旅行に出た。
私の運転する車で最初に向かったのはとある有名な稲荷神社。Jと私はそこでおみくじを引いた。私は大吉だった。Jは吉。
次に向かった少し小さな神社で、Jは再びおみくじを引いた。私は先ほどの結果が良かったので遠慮した。結果は中吉。
それから五つほど神社を巡り、その度にJはおみくじを引いていった。しかし恐らくJが求めていたであろう《大吉》を引き当てることはできなかった。
私は先輩として、Jが神秘的な者に頼らざる終えないような状況であるのなら、助けてやらないわけにもいかないと思い、その日宿泊する旅館の部屋で聞いてみた。
「何か悩んでることでもあるの? もしかして恋とか?」
するとJは、いつの間にやら引いたおみくじを全て畳の上に広げていた。それは、これから呪印術でも始めるのかといったような雰囲気。そして今までに見たこともないような微笑みで答えた。
「先輩、冗談はやめてください。悩み事なんてあるわけないじゃないですか。でもそうですね、強いてあげるなら、この興奮の抑え方がわからないんですよね」
Jのその笑顔は、何かに取り憑かれたかのように不気味だった。すると今度は、鞄の中からカードケースのようなものを取り出した。よく見るとその中には何枚にも束になった紙が収められている。そしてその中に、畳の上に広げられていたおみくじを一枚一枚丁寧に仕舞っていく。
呆然とその様子を見ていた私に、Jは言った。
「明日もたくさん廻りましょうね、先輩。――それじゃ先に温泉に行ってきますね」
部屋を出て行ったJを見送った後も、しばらく私は狐につままれたかのような気持ちだった。
特別Jに対して、何か慕われるようなことをした憶えはないのが、Jは私のことを信頼し尊敬しているのだと言ってくれる。悪い気はしない。しかし私自身、他人に対して特別自慢できるような特技を得てしているわけではない。自覚がないだけかも知れないが、あまり煽てられても困るのだとJには言い聞かせていた。
ただJは勉強熱心だった。熱しやすく冷めやすいところもあったが、それでも先輩である私が教えたこと以外にも、自ら行動して知識の幅を広げていき、そこから新しいアイデアなどを次々と生み出していく。それが暗礁に乗り上げかけていた事案を解決に導いてくれることもあった。それはまるで闇夜を照らす狐火のよう。私からしたらJはもう、私に頼らずとも生きていける人間であった。
そんなJから突然連絡あり、二人で旅行にでも行かないかと誘われたのだ。どこに行きたいのだと聞くと、Jは神社などのパワースポット巡りをしたいとのこと。近くには温泉もあるのだという一言に釣られ、仕事の疲れもあった私は有休を使い、Jと二人で有名な神社を回る旅行に出た。
私の運転する車で最初に向かったのはとある有名な稲荷神社。Jと私はそこでおみくじを引いた。私は大吉だった。Jは吉。
次に向かった少し小さな神社で、Jは再びおみくじを引いた。私は先ほどの結果が良かったので遠慮した。結果は中吉。
それから五つほど神社を巡り、その度にJはおみくじを引いていった。しかし恐らくJが求めていたであろう《大吉》を引き当てることはできなかった。
私は先輩として、Jが神秘的な者に頼らざる終えないような状況であるのなら、助けてやらないわけにもいかないと思い、その日宿泊する旅館の部屋で聞いてみた。
「何か悩んでることでもあるの? もしかして恋とか?」
するとJは、いつの間にやら引いたおみくじを全て畳の上に広げていた。それは、これから呪印術でも始めるのかといったような雰囲気。そして今までに見たこともないような微笑みで答えた。
「先輩、冗談はやめてください。悩み事なんてあるわけないじゃないですか。でもそうですね、強いてあげるなら、この興奮の抑え方がわからないんですよね」
Jのその笑顔は、何かに取り憑かれたかのように不気味だった。すると今度は、鞄の中からカードケースのようなものを取り出した。よく見るとその中には何枚にも束になった紙が収められている。そしてその中に、畳の上に広げられていたおみくじを一枚一枚丁寧に仕舞っていく。
呆然とその様子を見ていた私に、Jは言った。
「明日もたくさん廻りましょうね、先輩。――それじゃ先に温泉に行ってきますね」
部屋を出て行ったJを見送った後も、しばらく私は狐につままれたかのような気持ちだった。
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